図形編集を自動化しよう！AutoLISPの図形名関数8選

手動で図形の修正を繰り返すことにストレスを感じていないでしょうか。AutoCADのコマンドを上手に活用すれば作業が楽になりそうだけど、コマンドの数が多すぎて使いこなせずにお困りの方も多いはず。

そもそもAutoLISPってなに？という方はこちらの記事をご覧ください。
>>AutoCADユーザー必見！【AutoLISPを覚えるべきメリット5選】デメリットも解説

当記事ではAutoLISPの図形名関数について解説します。図形のさまざまな項目を一度に変更できたり、新規作成や削除もできたり、幅広い場面で役立ちます。コマンドを使わずに図形の編集ができるので、覚えるコマンドが最小限で済みます。

図形の編集を今よりも効率化して、作業を楽にしたい方はぜひ最後までお読みください。

図形名とは図形ごとに割り当てられた個別の名前

図面内の各図形には図形名と呼ばれる個別の名前が割り当てられています。図形名はAutoLISPで図形を操作するときに欠かせない情報の1つです。

図形名が重要である主な理由は以下のとおり。

図形を操作するためには目的の図形を特定する必要があります。しかし、図面内にはさまざまな図形が多数存在するため、手作業で図形を特定するのは非常に困難。図形名がわかると目的の図形をすぐに特定できるため、図形を探す手間が省けます。

さらに専用のAutoLISP関数に図形名を与えると、図形の定義データを取得できます。図形の定義データとは配置されている画層や頂点の座標など、図形を構成するために必要な情報がまとめられたデータのこと。

図形の定義データは連想リストと呼ばれるリストの形式で整理されており、各要素はグループコードと図形情報のドット対になっています。

ドット対

2つの値がドットをはさんでペアになっているデータ構造。(リンゴ . 赤色)のようにドットが2つの値をつなぐ役割をするためドット対と呼ばれる。

連想リスト

キーと値のペア（ドット対）を要素に持つリスト。((リンゴ . 赤色) (ぶどう . 紫色) (バナナ . 黄色))のように各要素の左側がキー、右側が対応する値を表し、複数の情報がまとめられている。

定義データは後述するAutoLISP関数で書き換えられるため、図形編集の効率化につながります。図形名はAutoCADの作業を楽にしたい人にとって重要な情報です。

AutoLISPの図形名関数8選

今回ご紹介するAutoLISPの図形名関数は以下の7つです。どれも図形編集の自動化・効率化に役立つ重要な関数なので、しっかり覚えておくことをおすすめします。

はこさん。

順番に1つずつ解説していきます。

entsel

entselとはユーザーに図形の選択を求めて、選択した図形の図形名とクリックした座標を返すAutoLISP関数です。entselには次のような特徴があります。

entselで図形を選択すると、下記のような図形名とクリックした座標のドット対を返します。何もない場所をクリックしたときの返り値はnilです。

はこさん。

図形名はcar部に、クリックした座標はcdr部に格納されています。

entselの実行中はオブジェクトスナップが無視されるので、任意の座標をクリックできます。メッセージが表示できるため、ユーザーの行動をサポートすることも可能。

下記のようにinitgetでキーワードを設定しておくと、特定の文字列が入力されたときに設定したキーワード（文字列）を返します。

(initget "Apple Orange Banana")
(entsel "図形を選択またはキーワードを入力してください。")

ちなみにキーワードの頭文字だけ大文字にしておくと、頭文字の1文字を入力するだけで対応するキーワードを表示できます。

はこさん。

entselは図形名を取得する基本的な関数です。

entget

entgetは図形名を与えることで、対象図形の定義データが取得できるAutoLISP関数です。図形の座標、線種、色などを詳しく調べたい場合に使います。entgetの特徴は以下のとおり。

entgetは指定した図形の定義データを連想リストで返します。リストの各要素はグループコードをキーとして、対応する図形情報とペアになっています。

連想リスト（図形の定義データ）はキー（グループコード）を指定することで、対応する値を取得できます。たとえば、選択した図形の画層を取得したい場合は次のように記述してください。

(setq figname (car (entsel)))
(setq ent (entget figname))
(setq layer (cdr (assoc 8 ent)))

entselで取得した図形名から図形の定義データを取得し、変数entに格納しています。画層のグループコードは8なので、assocに数値の8と変数entを与えることで選択した図形の画層を取得できます。

また、値がByLayerの場合は要素自体が省略されています。assocで対象のグループコードを検索しても、要素が見つからない場合もあるので注意してください。

entgetは登録されているアプリケーションにひもづく、拡張データを返すこともできます。登録アプリケーションと拡張データについてはAutoCADのヘルプを参考にしてください。
>>概要 - 拡張データ - Xdata (AutoLISP)｜AutoCAD 2025 ヘルプ

はこさん。

entgetは図形情報の詳細がわかる非常に便利な関数です。

entnext

entnextは図面内に存在する図形の図形名を返すAutoLISP関数です。図面内の図形を作成順で取得するときに使います。entnextの特徴は以下のとおり。

次のように引数を省略すると、entnextは図面内に存在する（削除されていない）図形の中で最初に作成された図形の図形名を返します。

図形名を与えた場合は、その図形名の直後に作成された図形の図形名が返り値になります。たとえば、entnextに引数を省略したentnextを与えると、2番目に作成した図形の図形名を取得できます。

最後に作成された図形の図形名を与えたときはnilを返すので、繰り返し関数のwhileとは相性バツグン。下記の例では最初の図形から最後の図形まで、順番に配置画層の表示を繰り返すことができます。

(setq figname (entnext))
(while figname
  (setq ent (entget figname))
  (setq layer (cdr (assoc 8 ent)))
  (print layer)
  (setq figname (entnext figname))
)

はこさん。

関数名のとおり、次の図形を取得する関数です。

entlast

entlastは図面内で最後に作成された図形の図形名を返すAutoLISP関数です。entlastの特徴は次のとおりです。

削除されていない図形の中から、最後に作成した図形の図形名を取得できます。図面内に図形が存在しないときは、取得できる図形名がないためnilを返します。フリーズしている画層の図形も対象なので、entlastを実行する前に画層のフリーズを解除する必要はありません。

プログラム中では作成直後の図形から図形名を取得するときによく使います。たとえば、作成直後の円から図形名を取得し、定義データの取得まで行いたい場合は次のように記述してください。

(command ”circle” (list 0 0) 10)
(setq figname (entlast))
(setq ent (entget figname))

定義データを取得できれば、作成直後の図形に対して画層の移動や線種の変更など、さまざまな操作ができます。

はこさん。

使える場面の多い便利な関数です。

entmake

entmakeは図形の定義データをもとに新規の図形を作成するAutoLISP関数です。entmakeの特徴は以下のとおりです。

図形の定義データにはさまざまな情報が含まれていますが、entmakeに与える図形の定義データには最小限の情報が含まれていれば図形を作成できます。情報が不足している場合など定義データが正しくないときはnilを返し、作図は行いません。

たとえば、コマンドで作成した円からentgetで図形の定義データを取得した場合、以下のように多くの情報が表示されます。

entmakeで同じ円を作成する場合、上図に表示されているすべての情報を与える必要はありません。次のように最小限の定義データを与えるだけで同じ円を作成できます。

各グループコードの内容は下表を参考にしてください。

はこさん。

作図を楽にしてくれる重要な関数です。

entmod

entmodは図形の定義データを修正（書き換え）するAutoLISP関数です。entmodには以下のような特徴があります。

図形の定義データに対して、entmodは一度に複数の情報を修正できます。たとえば、円の画層、中心、半径を下表のように修正したい場合、プログラムは次のように記述します。

(setq figname (car (entsel)))
(setq ent (entget figname))

(setq ent (subst (cons 8 ”test”) (assoc 8 ent) ent))
(setq ent (subst (cons 10 (list 20 20)) (assoc 10 ent) ent))
(setq ent (subst (cons 40 10) (assoc 40 ent) ent))

(entmod ent)

substとはリストの要素を置換するAutoLISP関数です。assocと組み合わせることで、連想リストのキーに対応する値を簡単に変更できます。

上記のプログラムでは修正したい項目をsubstで1つずつ置換して、新しい定義データを作成しています。作成した定義データをentmodに与えることで、各項目を一度に修正できます。

図面内に存在しない図形だったり、定義データの内容が正しくなかったり、定義データを正常に修正できなかった場合はnilを返すので注意してください。

はこさん。

endmodを使いこなすためには、定義データの内容を理解しておくことが大切です

entdel

entdelは図形名の図形を削除または復元するAutoLISP関数です。entdelの特徴は次のとおり。

entdelは指定された図形名の図形を図面内から削除します。削除された図形は一旦見えなくなるだけでデータ自体は図面に残っているため、entdelは削除した図形を復元することもできます。

たとえば、ユーザーが選択した図形を削除する場合は次のように記述してください。プログラムの処理が終わるとentselで選択した図形は削除されます。

(setq figname (car (entsel)))
(entdel figname)

上記のプログラムで削除した図形の図形名（変数figname）を与えると、図形が復元されます。

(entdel figname)

ただし、図面を閉じると削除された図形は図面から完全に取り除かれます。復元できるのは、図面を閉じる前に削除された図形だけなので注意してください。

はこさん。

削除してはいけない図形を誤って削除しないように気を付けましょう。

図形名関数を使いこなして図形編集を楽にしよう

entsel

ユーザーに図形の選択を求めて、選択した図形の図形名とクリックした座標をドット対で返す。図形名を取得する基本的なAutoLISP関数。

entget

図形名を与えると対象図形の定義データを返す。返り値はグループコードと対応する図形情報のドット対を要素とする連想リスト。

entnext

図面内に存在する図形の図形名を返す。図形を作成順で取得するときに使用する。

entlast

図面内で最後に作成された図形の図形名を返す。削除された図形は対象外。

entmake

図形の定義データをもとに新規の図形を作成する。定義データが正しくない場合は作図せずにnilを返す。

entmod

図形の定義データを修正（書き換え）するAutoLISP関数。一度に複数の情報を修正できる。

entdel

図形名の図形を削除または復元する。図面内にデータが残っていない図形は復元できない。

図形名関数は図形の作成や編集を自動化してくれる強力なツールです。上手に活用してAutoCADの作業を楽にしましょう。